身障者用運転補助装置の使い方

「意外と難しい。これは気合入れて練習しないと。」初めて運転補助装置を使った人たちの率直な声です。

身障ドライバーの多くが、病院や施設で様々なリハビリを行ってきたと思います。

ベッドへの移乗。車いすへの移乗。お風呂。トイレ。食事などの訓練(練習)を行ってきたからこそ、自宅へ戻ることが出来、また仕事や日常生活に復帰することが出来たのです。

それらと同じように、運転補助装置を使った運転も、リハビリ(訓練)無しには運転することは出来ません。

特に運転を始めた初期の頃(最初の1,2年程度)は、慣れるまでの期間、練習期間だと考えておいてください。

このページでは、特に身障ドライバービギナー向けに、上手に練習する方法、出来るだけ事故のリスクを低めるような使い方についてご紹介いたします。

◆装置をきちんと操作するための大前提

ハンドルやペダル、手動レバーなどの機器を、きちんと操作するために一番大切なことは、ドライバーがきちんと座席に座り続けていることです。当たり前でしょ。と思うかもしれませんが、体に障害のある人が最も不得意なのが、座席に座り続けることです。もちろん、高速道路や直線の道を走るだけなら誰でも座り続けることが出来ますが、自動車の運転はそういう場面はほんの一部。右左折、山道の他、何かが急に飛び出して来た時、急ハンドルを切らないければならい時にでも、きちんと座席に座り続けることが出来なければ、事故を避けることが出来ません。

つまり、どんな場面でも座席に座り続けられる能力が無ければ、ハンドル切ったり、ペダルを踏んだりできないのです。特に下肢に障害がある方は、体を支えるために足を使えませんので、上半身を強固に固定してくれる座席のある自動車(近年増えている純正座席です)を選んだり、専用のクッションを使ったり、場合によってはベルトなどで座席ごと体を縛る必要もあります。

両下肢障害のある方が運転中に座席から転倒する確率は100%です。

◆ 手動式(手動運転装置)の使い方

手動式は主に両下肢に障害がある方が使う装置です。脊髄損傷や頸椎損傷、切断などの方が使います。手動式には様々な形がありますが、ここではフロア型と呼ばれている装置について扱います。装置の種類についてはこちらのページをご参照ください。

一番重要な事は、「運転中に座席に座り続けられる事」
下肢に障害があると、カーブや交差点で体が横方向に傾くとき、写真のように助手席側に転倒することは誰もが経験することです。転倒しないようにドライバーは、ハンドルを持つ右腕と、手動式レバーを持つ左腕に力を入れ、それぞれを支えとして転倒しないように運転します。しかし、ハンドルも手動レバーも、常に動かす道具ですので、単なる手すりではありませんので、「動かしながらも体を支える手すりとして使う」という感覚に慣れる必要があります。多分、初めて手動式で運転したとき、座り続けることがいかに困難か誰もが実感すると思います。車いすの人が公園のベンチに座るような感じです。一般的に運転を継続してゆけば徐々に感覚を覚えることが出来るようになりますが、慣れるまでの期間は、転倒による事故が起きる可能性があります。お勧めの方法は、ユニバケのような自動車用の座位保持クッションを使うことや、座席と体を幅の広いマジックテープで固定する方法などがあります。マジックテープで固定する方法を使う場合は、自家用車のサイドエアバックが、座席本体から展開しないタイプであることを確認することが重要です。サイドエアバックが座席の背もたれから展開するタイプなのに、マジックテープなどでの固定を行うと、エアバックが展開した際に重大な事態になりますので注意が必要です。
装置の操作自体はそれほど難しくありません。
手動装置自体の操作はそれほど難しいものではありません。もちろん慣れるまで一定の期間が必要ですが、操作が単純ですのでいずれ慣れます。ただし、座位保持に不安があると運転中に体の不安定さばかりに気を取られて、操作や、前方や側方の注意などがおろそかになってしまいます。まずは駐車した状態の車で操作してみて、スムーズに操作できそうだという見込みを感じてから走行を始めます。
筋力
何かが飛び出して来た時に急ブレーキをかける力は、相当強い力が必要です。足でなら何とかなっても、手でそれと同じだけの力を発揮させるのは簡単ではありません。ジムに通う必要はありませんが、日常生活の中で構いませんので、腕の筋力の維持に努めましょう。急ブレーキで危険を回避する自信がないなら運転は止めるるべきです。急ブレーキがかけられなくて事故になった場合、「障害者だから」は理由になりません。また、手動レバーを使う人は、おのずとハンドルは片手で操作しますので、今まで両手でハンドルを回して時よりも、片手でハンドルを回す方がより強い筋力が必要なのは想像できると思います。レバーもハンドルも操作のために動かす以外に、前述のように座位保持のための手すりとして使うため、筋力の維持は非常に重要です。
座位バランスのとり方
手動レバーとハンドルを手すり代わりにして座席に座り続ける。下肢に障害がある人の宿命です。これが会得出来なければ運転はあきらめるほかありません。どんなドライバーも、何の対処もしなければ転倒を繰り返すと考えて下さい。
操作のコツ
手動レバーの操作自体はそれほど難しくありませんが、よくある問題として、レバーの微調整が出来ない。というのがあります。少しだけアクセルを開けようと思ったけれど、レバーを引いたらグイっと急加速した。とか、少しだけブレーキを掛けようとしたら、ドカンと急停止した。などです。多くの人たちが運転を始めたばかりの頃に遭遇する困難です。これを解決する方法はただ一つ。レバーを動かす法の腕(国産車なら左腕)の肘を、ひじ掛けにおいて、肘を支点にして操作します。なるべくレバーの操作は手首を使うようにします。こうすることで簡単に克服できます。車種によっては元々センターコンソール部に肱置きが付いていたり、座席にひじ掛けが付いていたりしますのでそれを利用します。もしそのようなひじ掛けが付いていなければ、自動車用品店や通販を使ってひじ掛けを買ったり、センターコンソールを高くできる「物入れ」を付けるなどして、肘を乗せることが出来るようにしましょう。
スムーズなレバー操作が出来るようになれば一人前
座位保持バランスやレバーのスムーズな操作を習得できるまでいくらか時間がかかります。人によって違いますが、3か月という人もいる一方で、何年やっても不安が消えないという人もいます。年齢や過去の運転歴、障害の程度、遺伝的な運動能力なども影響すると思います。もし不安が解消されないと感じたら、運転に向いていないのかもしれません。無理をしないでいったん立ち止まる勇気も必要です。
筋力が足りないと感じたら
レバーの操作が筋力的につらいなあ、と感じるなら、運転専用で販売されているすべり止め付きの手袋「ドライビンググローブ」を使ってみましょう。

◆旋回グリップの使い方

旋回グリップは、手動式の方も左アクセルの方も使う機器です。ハンドルを片手でスムーズに回すことが出来るように装着します。最近は免許条件に記載される例も多くなっていますし、当会では片手でハンドルを回す必要があるすべての方にそうちゃうを推奨しています。なぜなら「いざという時」にハンドルを迅速に確実に回せるかが問われるからです。日常の運転で交差点を曲がる、車庫入れするなどの際には、片手でも十分対応可能という人もいるでしょう。しかし、いざという時に「避ける」ことは、片手では困難です。

何より大切なことは筋力
ハンドルは両手で回すことを前提に作られています。これを片手で回すのですから、両手を使うよりも筋力が必要なことは自明です。また、健常な頃から右手だけでハンドル操作をしていた、という方であっても、下肢に障害があり座位バランスがとりにくい方などは、昔のように片手で回すことが難しくなります。さらに、左手でハンドル操作をしなければならない場合は、左手だけで運転する経験はほぼありませんので、スムーズに回せるまで一定の経験が必要です。ハンドルをスムーズに、また的確に回すこととは、一般道での通常の運転場面のことではなく、何かが急に飛び出してきても、ハンドルで避けられる能力のことです。この点を誤解している人がいますので注意しましょう。
曲がる時だけ握れるように慣れましょう。
旋回グリップを使い始めたばかりの時は、常に旋回グリップを握って運転する方が多いです。これはある程度仕方ないことですが、常に握っていると、ウィンカーの操作がしにくい。腕が疲れやすいなどの弊害が出ます。徐々にハンドルを回すときだけ握ることが出来るように練習しましょう。
使わないなら取り外す。
旋回グリップを付けたけど、使わなくても運転できる、という方は、使う必要はありませんので外しましょう。(但し免許条件に旋回装置限定などが付与されている方は外してはいけません)以下の動画のように、旋回グリップを付けた状態で、それを使わずに運転すると、手首と旋回グリップが干渉して、ハンドルから手が離れてしまい非常に危険です。なお、免許条件に旋回装置限定などの記載があり、なおかつ旋回グリップを使わなくても十分操作が出来るという方は、「限定解除」という手続きを行います。
限定解除の方法
旋回装置や手動式、左アクセル等の限定条件が付与されていても、不要であるならば「限定解除」という手続きで、条件を外すことが出来ます。限定解除の手続きは免許センターで適性検査を受ける事が必要です。適性検査で、条件を解除しても健常者と変わらず運転できると確認出来れば、条件は解除されます。希望される方は地元の免許センターへ相談しましょう。
筋力が足りないと感じたら。
ハンドルを片手で保持し続けるのは結構大変です。片手でハンドル保持する人もほとんどが、ハンドルを車両前方へ押すように力をかけているはずです。この姿勢や力の入れ具合を長時間行うのはきついという方がいるはずです。そんな時は、運転専用と称して販売されているすべり止め付きの手袋「ドライビンググローブ」を使ってみましょう。ハンドルを握る筋肉とハンドルを保持するするための使う筋肉は、同じような部位を使います。ドライビンググローブは握る筋力を補ってくれますので、楽になると思います。

◆左アクセルの使い方

左アクセルは右足に障害がある方が、左足でペダル操作が出来るように取り付ける機器です。近年は脳卒中や脳外傷の右片麻痺の方が使うケースも増えているようです。

左アクセルの慣熟は非常に難しく、例えれば「右利きの人が左手で箸を使いこなせる位」と表現しています。

左手でも右手と同じように箸を使えるまでには長い年月と訓練が必要で、なおかつ、誰でも出来るというものではないかもしれません。

当会の経験では、元々左足が利き足の方。左足を使うスポーツ経験者(サッカーなど)。先天的に運動能力の高い人。などは、何とか乗り越える可能性が高いのではと考えています。

当会が行っているドライビングレッスンでも左アクセルユーザーが受講することがありますが、2017年で行った左アクセル対象車(計10名全員が脳卒中後遺症)で、初回のレッスンの2時間を、無事に走り終えることが出来た人はゼロです。多くの方が「ペダルの踏み間違い」を起こします。

特に脳卒中や脳外傷の後遺症で、認知機能の低下と片麻痺が重複している人は、運転中の外界への注意力とペダル操作への注意力という複数の注意力が必要なため、車の準備はしたけれど、運転は断念したという事例も多いのが特徴です。

左アクセルに慣れるまでの期間は、本人の資質や年齢次第だと感じていますが、最低でも数年はかかると当会は考えています。

左アクセルユーザーが直面する課題としては大きく2点あります。一つは「ペダルの踏み間違い」もうひとつは「自分の足が今どのペダルに乗っているかわからない」です。

以下の動画では、この課題を克服するための練習法をご紹介しています。

体の使い方としては、腿を上げて足を移動⇒腿を下げて踵を床につける⇒つま先からペダルを踏む。という順番です。

◆使うだけじゃダメ。点検が必要です。

運転補助装置類は、自動車本体に後から取付た製品です。従って、車検での点検項目に入っていません。自動車本体は、2年に一度の車検で必要な点検や整備を行いますが、補助装置類は点検されません。ネジが緩んだり、ほこりやごみがたまって可動部の動きが悪くなったりします。運転中にネジが外れたり、動くべき部品が動かなくなることは、事故に直結し非常に危険です。2年に一度の車検の際には、整備工場やディーラー経由で、装置メーカーに点検してもらうよう依頼しましょう。